アメリカで導入が進んでいる高機能電子カルテEpicの紹介

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北爪 聖也

株式会社pipon代表取締役。 キャリアはADK(広告代理店)でテレビ広告運用をして残業120時間するが、ネット広告では自分の業務がAIで自動化されていることに驚愕する。そこで、機械学習受託会社に転職し、技術力を身につけた後、piponを創業。現在、製薬業界、大手監査法人、EC業界、様々な業界でAI受託開発事業を運営。

はじめに

さまざまな業界で人工知能(AI)やビッグデータを使ったソリューションが開発されており、ヘルスケア分野も例外ではありません。
AIの活用によって医療従事者の業務の効率が向上したり、さらに正確な診断を下せるようになったりするなど、AIへの期待は高まっています。
特に効果が見込まれるソリューションの一つが、電子カルテの有効活用です。
例えば、電子カルテに症状を打ち込むとAIが疑われる疾患を示して、診断の補助的な役割を果たすなどが期待できます。
これは、従来の紙のカルテではなし得なかったことで、電子カルテが導入されて初めて実現できることです。
電子カルテは導入コストや維持コストがかかることから、小規模な病院では導入はまだこれからというところが多いですが、大きな病院では導入が進んでいます。
米国でも電子カルテの導入が進んでおり、電子カルテ市場でトップシェアを誇るのがEpic社です。
今回は、Epic社の電子カルテEpicを紹介します。

Epic社の電子カルテが普及した背景

Epic社の正式名称はEpic Systems Corporationで、米国ウィスコンシン州に本社を置く1979年設立の非公開会社です。
Epic社の開発した電子カルテEpicは、米国の電子カルテ市場でトップシェアを確保しています。
Epic社の飛躍のきっかけとなったのが、2009年にオバマ政権の「オバマケア」の一環で制定されたのHITECH法(経済的および臨床的健全性のための医療情報技術に関する法律)です。
HITECH法とは、①医療ITの促進、②医療ITの実証、③インフラなどに対する助成金や融資の提供、④プライバシー保護を巡る取り組み、の4点を盛り込んだ法案です。
本法においては、電子カルテを導入した医療機関に対して総額250億ドルの支援を行う制度があり、これがインセンティブとなって電子カルテの普及が進むとともに、多くの電子カルテ関連企業が生まれました。
Epic社はこの機会をうまく捉えて、自社の電子カルテシステムEpicを普及させることに成功しました。

電子カルテEpicの特徴

Epic社は米国の電子カルテシステムの最大手で、電子カルテ市場の31%を占めていると言われています。
電子カルテEpicはクラウドベースのアプリケーションで、3つのメインモジュール(EpicCare Ambulatory、EpicCare InPatient、EpicCare ASAP)と、各医療分野(麻酔科、産科、放射線科など)に特化した24の付属製品で構成される、モジュラー設計のスタイルを採用しています。
Epicを導入することで、医療機関では患者個人の健康情報の安全な共有、関連する小規模病院への適用範囲拡張、480以上の他の医療ソフトウェア製品との統合などが可能になります。
検査室、薬局、支払い実績とEpicを接続できるため、患者登録から治療、入退院、請求まで、病院のワークフロー全般で情報を統合・管理できるのが特徴です。

Epicの強み

電子カルテシステムEpicを導入することで、医療機関は次のような恩恵を受けられます。

1) 設備投資の低減

院内サーバーで電子カルテシステムを運用しようとすると、常にメンテナンスやアップグレードが必要となり、膨大な設備投資や人員が必要です。
一方、Epicはクラウドベースのシステムなので、インフラ構築のコストをすべてクラウドのプロバイダーが負担することになり、設備投資やメンテナンス要員が不要になります。
また、一般的にクラウドサービスは従量制モデルを採用しているため、医療機関は使用した分だけの支払いで済ますことができます。
院内サーバーからクラウドへの移行により、支出が最大40%削減可能とのことなので、大きなコストメリットが見込めます。

2) ワークフローの改善

Epicは医療機関のニーズに合わせてカスタマイズできるため、作業手順を改善することで最も効率的な業務ワークフローを構築できます。
これにより、各スタッフの日常業務が効率化され、余分な作業を最小限に抑えることができます。

3) 提供する医療ケアの質の向上

医療機関の目標は、患者に最高品質の医療ケアを提供することです。
Epicのシステムを最適化することで、各医療ケアの連携を改善できます。
また、業務ワークフローを標準化することによって医療ミスのリスクを低減するとともに、医師と患者のコミュニケーション向上を実現することで、提供する医療ケアの高品質化に貢献します。
Epicをクラウドで運用する最大のメリットは、医療機関の各スタッフが自分たちの得意分野に専念でき、ネットワーク管理など得意分野以外の業務はアウトソーシングできることです。
Epicを導入した医療機関は、限られたリソースを医療ケアに集中させることができます。

4) 収集する情報やデータ分析の改善

Epicのシステムを最適化すれば、本当に必要な情報を選別して収集することが可能です。
また、電子カルテ情報のデータ分析によりデータの整合性に関する問題を検出したり、より詳しい分析をするための追加のソリューションを導入したりすることも可能になります。
Epicを、得られた情報を積極的に問題解決に活用するためのきっかけにできます。

5) 生産性の向上

業務システムを改善することにより、スタッフの生産性向上が期待できます。
そのためには、性能が優れたITツール、効率的なワークフロー、信頼性の高い情報が必須です。
Epicはデータ分析、レポート、ダッシュボードをユーザー主導の形でカスタマイズできるので、各職場のスタッフが最も生産性を高めるサポートが可能です。

6) コンプライアンスの強化

取り扱う情報の性質上、医療機関に求められるコンプライアンスは多岐に渡っており、医療機関はさまざまな法規制に対応するために、多大なリソースを費やしています。
Epicの最適化はとても手間がかかるように見えますが、適切なワークフローを構築することで、結果的にコンプライアンスを実現するために必要なリソースを減らすことができます。

7) ネットワーク障害の回避

ネットワーク障害が起こると電子カルテが全く使えなくなり、業務に大きな支障をきたしますが、AWSなどのパブリッククラウドサービスは信頼性が高いのが強みです。
クラウド事業者は、冗長性、迅速な復旧、地理的な分散などに多大な投資を行い、ほとんどの医療機関が自力で実現できないような高度で信頼性の高いインフラを構築しています。
従って、クラウドベースのEpicであれば信頼性が高いので、ネットワーク障害を気にせずに利用できます。

8) セキュリティレベルが高い

電子カルテに記載される情報は個人情報の塊であり、外部への流出は決して許されません。
しかし、ある調査機関での調査の結果、電子カルテシステムのダウンタイムの半分はサイバー攻撃によるものであることがわかり、常に外部からの侵入が懸念されます。
どのようなシステムでも外部からの侵入を完全に防ぐことはできませんが、クラウド事業者は、一般的な医療機関よりもはるかに多くの資金をサイバーセキュリティ対策に投資できます。
クラウド事業者はサイバー攻撃に精通しており、セキュリティレベルの高さが売りなので、電子カルテシステムを運用するには大きな安心を与えると言えるでしょう。

おわりに

今回は、米国の電子カルテ市場でトップシェアを誇るEpicを紹介しました。
電子カルテシステムは高いセキュリティレベルを求められており、クラウドベースのEpicはそのニーズにマッチしていると言えます。
また、医療機関におけるワークフローの各ステップと連携させることができるので、業務の効率化につなげられることも大きな魅力です。
近年、AIを使ったさまざまなソリューションが開発されていますが、医療分野においても例外ではありません。
AIを使って電子カルテシステムの情報から新たな価値を生み出す取り組みもあり、今後もさらに多くの医療機関で採用されることが期待されます。
今後も電子カルテの導入が加速するはずなので、Epicの動向にも注目しましょう。

参考サイト

Epic Systems

5 ADVANTAGES OF EPIC AS A SERVICE FOR CLOUD-BASED EHR

6 Benefits of Optimizing Your Epic EHR System

Epic EHR on the Cloud – Top 3 Benefits for Healthcare Providers

電子カルテデータの解析により、糖尿病治療薬の効果を予測・比較する技術を開発

医療ビッグデータの利活用の法的問題点

電子カルテ導入で医療現場はどう変わるのか

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