Roivant Sciences(ロイバントサイエンシズ)のビジネスモデルを解説

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北爪 聖也

株式会社pipon代表取締役。 キャリアはADK(広告代理店)でテレビ広告運用をして残業120時間するが、ネット広告では自分の業務がAIで自動化されていることに驚愕する。そこで、機械学習受託会社に転職し、技術力を身につけた後、piponを創業。現在、製薬業界、大手監査法人、EC業界、様々な業界でAI受託開発事業を運営。

はじめに

今回は、米国にあるロイバントサイエンシズ社(Roivant Sciences、以下、ロイバント)のビジネスを紹介します。ロイバント自身は一からの創薬プロセスを保有しておらず、他社が開発を中断した新薬技術を買い取り、継続して新薬を開発するビジネスモデルを採用しています。買い取る新薬候補を探索する際に、人工知能(AI)を採用している非常に興味深い会社です。今回は、ロイバントのビジネスモデルや技術力を紹介します。

ロイバントの特徴

ロイバントは2014年5月に設立された、非上場のバイオベンチャー企業です。ロイバントは、他社から購入した新薬候補の開発を継続する、「~バント」と名の付く多数の子会社(イミュノバント、デルマバントなど)を所有しています。子会社は開発が進んだ新薬候補とともに、製薬会社に会社ごと売却されることが多いため、子会社が頻繁に増えたり減ったりする非常に動きのある会社と言えます。
ロイバントは非上場の会社ではあるものの、その独特のビジネスモデルが大きな注目を集めています。

ロイバントのビジネスモデル

ロイバントのビジネスモデルは、他の製薬会社が完成させられなかった新薬候補化合物を譲り受け、データ分析などの手法を駆使して開発を継続して、新薬の完成を目指すというものです。
新薬の開発には、10年以上の長い期間と数百億円とも言われる費用が必要です。それだけの時間とコストをかけても、開発の成功率は約3万分の1とも言われており、ほとんどの候補化合物は開発途中の段階で中断されています。
開発途中の化合物を買い取る大きなメリットは、開発期間とコストを大幅に削減できることです。
このビジネスモデルの恩恵を受けるのはロイバントだけでなく、ロイバントに候補化合物売却する企業にも以下のようなメリットがあります。

・開発を断念した化合物でも、契約内容によっては、ロイバントからロイヤリティを得られる可能性がある。
・成果を出せなかった化合物の開発コストを、一部ではあるものの回収できる。
・開発リソースを整理し、別の有望な化合物にリソースを集中できる。
・それまで投入したリソースや努力が全くの無駄ではなく、患者を救う可能性があると前向きになれる。

ロイバントのビジネスモデルでは、どういった化合物を買い取るかが非常に重要です。科学的な原因で中断した化合物はその後の開発が難しいことが多いため、ロイバントでは主に、計画変更など科学的な原因以外で中断した化合物を探索し、買い取るようにしているとのことです。

デジタル技術の活用

ロイバントでは、候補化合物の探索や買い取った新薬候補化合物の継続開発において、デジタル技術をうまく活用しています。

1) デジタル技術を使った候補化合物の探索

まだ上市に至っていない候補化合物を見つけるため、ロイバントは世に公開されている膨大なデータベースから、AIを使って候補化合物、作用機序(薬が治療効果を及ぼす仕組み)、エンドポイント(臨床試験における治験薬の有効性や安全性を判断するための評価項目)をマッピングしてチャートにします。このチャートを使って、候補化合物の絞り込みや実用化の可能性を見極めていくのです。

2) デジタル技術を使った開発の推進

ロイバントは開発に行き詰った創薬を成功に導くため、デジタル技術を積極的に採用しており、2019年にはVantAIという子会社を設立しています。VantAIでは、最先端の機械学習技術と、バイオテクノロジーに関する深い知見を組み合わせて、分子、ターゲット、疾患の間の隠れた関係を明らかにする計算モデルを作り上げています。
このモデルは、ターゲットに対する効果的な分子成分の特定とその生成、開発のあらゆる段階における既存の分子の再利用、正確なADMEや毒性の発見、臨床試験に影響を与えそうな有害事象の予測を行うためのソリューションなどを提供するものです。
VantAIのインシリコプラットフォームは、複雑なタンパク質の相互作用のモデル化を得意としており、低分子医薬品にだけでなく、バイオ医薬品やタンパク質分解誘導薬の発見にも貢献しており、強力なツールがロイバントグループの開発を支えています。

日本企業とのつながり

ロイバントは、日本企業ともさまざな関わりを持っているので、いくつかの例を見てみましょう。

1) ソフトバンク

ソフトバンクは2017年に、ロイバントに11億ドルの出資を行いました。当時、バイオテック企業に対する過去最大の単一出資額と言われました。出資前の、2015年と2016年にはロイバントの子会社が大型の上場を果たしており、ソフトバンクはロイバントの戦略や将来性に大いに期待したようです。

2) 大日本住友製薬

2019年、大日本住友製薬は3200億円もの巨費を投じて、ロイバントと提携を結びました。この提携内容は以下の通りです。
・ロイバントの子会社5社の株式を取得
・ロイバントに残る子会社6社の株式を取得できるオプション
・ロイバントが所有するデジタルプラットフォームと人材を獲得
・ロイバントの株式を10%以上取得
・ロイバントのヘルスケアテクノロジー子会社が提供するサービスの利用

この大型提携により、ブロックバスターとなり得る多くのパイプラインを獲得できるだけでなく、DXの加速や生産性の向上を目指していくとのことです。

3) 武田薬品工業

武田薬品は2016年にロイバントと共同で、女性疾患および前立腺がんの治療薬の開発を行うマイオバント社を設立し、武田薬品が開発していたレルゴリクスの独占的権利をマイオバント社に提供しました。
武田薬品はオンコロジー(がん)、消化器系疾患領域、中枢神経系疾患領域を重点領域として強化しており、レルゴリクスは戦略的な提携が必要と考えての動きです。
なお、このマイオバント社は、2019年に大日本住友製薬が株式を取得した子会社5社のうちの1社で、現在レリゴリクスの開発は順調に進んでいる模様です。

4) 第一三共

第一三共は2018年に、治験用医薬品のライセンス供与を促進するためロイバントと提携しました。これは、開発段階に応じて、所定の条件で治験の専用実施権をロイバントに提供するものです。
ロイバントは、第一三共の持つ広範囲な開発品の中から、ライセンス供与を受ける化合物を選定し、子会社を設立して開発を継続することになります。
具体的な化合物は明らかになっていませんが、ロイバントのビジネスモデルを考えると、第一三共において開発が中断あるいは、優先順位が下がっている化合物が候補として挙げられ、候補の中からロイバントが選定したことが予想されます。

おわりに

今回は、ロイバントのビジネスを紹介しました。ロイバントは、他社が開発を進めていた化合物を買い取って、開発を継続するユニークなビジネスモデルを有しています。買い取った開発品の中には、ブロックバスターに成長したものもあり、ロイバントの選定眼は大変優れていると言えます。今後も、さまざまな製薬会社との提携が進むとみられ、ロイバントの動きは注目を集めそうです。

参考サイト

ロイバント社ホームページ

新しいビジネスモデルを持つロイバント・サイエンシズは業界の台風の目になるか?

ロイバント・サイエンシズ(Roivant Sciences)は「失敗した薬」で儲けられるのか

ソフトバンクが10億ドル超を投じる「製薬ヴェンチャー」の正体

AI IN ACTION E148: LUCA NAEF, HEAD OF ANALYTICS AT VANTAI

大日本住友が3200億円を投じて提携するロイバントとはどんな会社か

Roivant Sciences との戦略的提携に関する基本合意書の締結について

Roivant Sciences社と武田薬品による女性疾患および前立腺がんに対する革新的な新薬開発のためのMyovant Sciences社の設立について

Roivant Sciencesと第一三共が広範なパイプラインパートナーシップ契約