医薬業界のデータ解析

中外製薬が掲げるDX戦略についてインタビュー

今回は中外製薬のデジタル戦略推進部長の中西さんをイタンビューさせて頂きました。中外製薬が2030年までのデジタルトランスフォーメーションの推進に向け掲げる「CHUGAI DIGITAL VISION 2030」についてデジタル戦略推進部長の中西さんへpiponの北爪が詳細をお伺いしていきます。

北爪
北爪
中西さんが所属されるデジタル戦略推進部の役割を教えてください。

中西さん
中西さん
デジタル戦略推進部はデジタル・IT統轄部門の中にあり、全社にかかわる機能が集まるコーポレート組織の一つとして、研究や営業など社内のあらゆる部門でのデジタル化の推進をリードしています。

北爪
北爪
創薬以外の分野でも、デジタル化の推進を担っていかれる部門ということでしょうか?

中西さん
中西さん
そのとおりです。我々自身がデジタル技術で何かをするというのではなく、研究・開発・生産・営業など、ビジネス部門のやりたいことや困っていることを聞き、その解決策を彼らと一緒に考えて、解決策の一つとしてデジタル技術の活用を提案しています。あくまで主役はビジネス部門であり、我々は彼らがやりたいことの実現を後押しする役目だと考えています。我々はビジネス部門が有するような業務に関する高い専門性をもたないケースもあるのですが、知識が全くないと、門外漢が何を言っているんだと思われてしまうので、ある程度の知識を持ち合わせた上で、ビジネス部門にやりたいことを聞き、デジタル技術の活用方法を提案できる組織を目指しています。

北爪
北爪
なるほど、デジタルありきではなく、課題ドリブンでデジタルがどう解決できるかを考えて推進されているということですね。
さて、中外製薬では『CHUGAI DIGITAL VISION 2030』という大きなビジョンを掲げて、DX推進を打ち出しています。ここでまで明確にデジタル化を打ち出す製薬会社は少ないと思いますが、なぜ2030年という時間軸を設定したのでしょうか?また、このビジョンを掲げた目的や意図は何でしょうか?

中西さん
中西さん

何か新しいことをやろうとするとき、できそうなことの積み上げで考えると現実的なアイデアしか出てきません。そこで、中長期的な視点で2030年のありたい姿を設定し、そこからバックキャスト(未来起点の発想法)で何をすべきか考えることにしました。

これは、今年2月に発表された中外製薬の2030年に向けた新たな成長戦略『TOP I 2030』と同じ考え方です。このビジョンの背景には、先ほど申したバックキャストで考えたいということと、こうありたいというビジョンを社内外に発信して、いろいろな人を巻き込みたいという意図もあります。ビジョンを社内外に発信し続けることで、社内のベクトルを一つに向けて強い推進力を持たせたいという思いがありました。」

北爪
北爪
社内のベクトルを合わせるという目的だけでなく、社外に向けて発信するという目的もあるということですね。

中西さん
中西さん
そうですね。我々がやりたいことを社外に発信して、当社がデジタルに力を入れていることを理解してもらうことで、デジタル系のパートナー企業から新しい提案をしてもらえるようになるだけでなく、データサイエンティストやITのスペシャリストのような、これまでは当社に興味の無かった人たちへもアピールできますので、社外への発信も強く意識しています。

北爪
北爪
AWS上に構築したChugai Scientific Infrastructure(CSI)で、まずはデータ解析基盤を作ることに注力されたと思います。データ基盤を構築する上で、部署間の連携や運用の面などで難しかったことは何でしょうか?また、CSIのメリットを教えてください。

中西さん
中西さん
まずは、CSIにさまざまなデータを集める必要があります。しかし、ビジネス部門は、サーバーで管理できているデータをなぜわざわざ移行させないといけないのか、という思いが強いですから、まずCSIのメリットをビジネス部門に理解してもらうことが難しかったですね。また、データを単純にCSIに入れればよいのではなく、データをカタログ化してメタデータ管理しないと使えるデータ基盤にはなり得ないので、データを丁寧に作り込むことに注力する必要があります。

CSIのメリットですが、外部との共同研究プロジェクトに要求されるセキュアな研究環境を効率的に構築できること、データはクラウド上に保存するので容量を気にしなくてよいですし、高度な解析環境もCSIで提供できるので、CSIの中ですべてできてしまうことがビジネス部門にとってのメリットと言えます。CSI上でいろいろなアプリケーションを使えるので各部門は自分たちでサーバーにアプリケーションをインストールする必要がないですし、社内データの部門横断的な活用もやりやすくなります。短期的に見ると大きなメリットは見えにくいですが、将来像を見せながらCSIのメリットを理解してもらうことが重要です。

北爪
北爪
Digital Innovation Lab(DIL)では、全社員がデジタル戦略を提案できるのでしょうか?今までどのような提案があり、どのような案が採択されたのでしょうか?成功事例・失敗事例などがありましたらお聞かせください。また、DILを設立したことによる意識の変化はありましたか?

中西さん
中西さん
デジタル技術を使って、自分たちのビジネス課題を解決したいと思っている人は誰でも応募できます。応募された案件の中から我々が投資する案件を決めますが、プロジェクトの推進は起案者自身にやってもらうスタイルにしており、自主性を大事にしています。


去年は140件以上の案件が提案され、今は25~6件がPoCのステージに進んでいます。案件の詳細はまだ社外に公開できませんが、近いうちに公開したいと思います。


DILのよいところですが、いろいろなアイデアはあるけどお金がない、あるいは上司の理解が得られないなどで、第一歩を踏み出せないことがよくあります。提案されたアイデアが審査を通れば、資金は我々が出しますし、一緒にプロジェクトを推進するパートナー企業とのマッチングなどもサポートしますので、起案者の労力は最小限に抑えられます。また、アイデアを出して終わりではなく、実際に行動できるところまでが見えていると、よりたくさん考えるという、よいサイクルを回せるようになります。

北爪
北爪
DXを打ち出したけれども、社内に根付かない、プロジェクトが途中で終わってしまうということはよくあると思います。デジタル戦略推進部が実行力を持てる要因はどこにあるのでしょうか?

中西さん
中西さん
我々自身が考えて解決策を提案してしまうと、根付かなかったり途中で終わったりしてしまうことが多くなります。しかし我々はビジネス部門が何をやりたいのかを考えて推進しているので、プロジェクトが途中で終わることはほとんどありません。もし途中で終わる可能性があるとすれば、それは彼らが最初に立てたビジネス課題が途中で変わってしまったり、単純に技術・コストの見込みに問題があったときなので、それは仕方ないことと割り切っています。とにかく、デジタルありきで我々目線で話を進めないように気をつけています。

北爪
北爪
CHUGAI DIGITALでは、研究・開発・生産・営業のすべてにおいてデジタル技術を活用しようとしていると思います。この中で特に注力している分野はありますか?

中西さん
中西さん
中外製薬のビジネスモデルは、ロシュ社との戦略的アライアンスにより、ロシュ社製品を国内で独占販売することができ、また自社の創製品をロシュ社に導出することで、グローバル市場に展開が可能となります。これらによって当社は安定的な収益基盤を確立でき、高い技術・創薬への集中投資が可能となりました。


したがって、デジタル基盤を強化しすべてのバリューチェーンで効率化を進めるという前提があった上で、デジタルを使った革新的な新薬創出に注力しています。

北爪
北爪
DX戦略を推進する上で、参考にしているあるいは、注目している企業はありますか?

中西さん
中西さん
参考にしている特定の会社はありません。いろいろな会社でデジタル戦略が進められていますが、それぞれの会社に合ったやり方ですので、それをそのまま当社に適用することはできないと思っているからです。ただし、製薬会社以外にも多くの会社でデジタルトランスフォーメーションが進められていますので、個別の案件で面白そうな取り組みがあれば参考にできるよう、他社の動向を広く観察しています。

インタビューは以上になります。
「CHUGAI DIGITAL VISION 2030」実現をリードするデジタル戦略推進部の役割・目的から、そこで行われている施策や、実行する上での考え方をお聞きすることが出来ました。

マッキンゼーが発表したレポートでは製薬会社のデジタル変革の成功率は4〜11%と言われています。そんな中、今回のインタビューでは、デジタル変革を成功させる上でのヒントが詰まっているお話をお聞きすることが出来たと感じました。

ABOUT ME
北爪 聖也
ダメ営業マンからデータサイエンティストへキャリアチェンジ。 技術とビジネスサイドの橋渡しが出来るため、ダメ営業マンの経験も役に立ちました。 広告代理店ADKにて3年勤務→データ分析受託の会社DATUM STUDIOにて1.2年勤務後、独立。
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