バイエル薬品のDX戦略を解説

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北爪 聖也

株式会社pipon代表取締役。 キャリアはADK(広告代理店)でテレビ広告運用をして残業120時間するが、ネット広告では自分の業務がAIで自動化されていることに驚愕する。そこで、機械学習受託会社に転職し、技術力を身につけた後、piponを創業。現在、製薬業界、大手監査法人、EC業界、様々な業界でAI受託開発事業を運営。

はじめに

今回は、ドイツの製薬大手であるバイエル(Bayer)が推進するDX戦略を解説します。近年、製薬業界でもビッグデータを使った創薬プロセスの変革や、最新のデジタル技術を使った治療アプリなどさまざまな新しいソリューションが開発されており、各社の競争はますます激しくなっています。製薬大手のバイエルでも、パートナーシッププログラムの立ち上げやデジタル企業との協業などデジタル技術を使ったさまざまな取り組みを発表しています。今回は、バイエルで推進しているDXの取り組みを見ていきます。

バイエルにおけるDX推進の取り組みについて

1) 他社との積極的な協業

① パートナーシッププログラムの立ち上げ

バイエルは、経験の浅い新興企業から経験豊かな既存企業まで幅広い会社を対象に、G4A Digital Health Partnership Programと呼ばれるプロジェクトを立ち上げ、循環代謝病疾患、腎疾患、腫瘍、婦人疾患の分野で新たなデジタル技術におけるコラボレーションの取り組みを開始しました。新興企業からは2社を選出し、10万ユーロとバイエルによるコーチングを提供します。既存企業からは3社を選出し、大きなビジネスにつなげられるよう個別に支援をしていく予定です。

増え続けるデジタル需要に対応するための一つの方法として、バイエルは他社とのパートナーシップを積極的に活用しています。デジタルヘルスの分野は非常に複雑で、製薬会社が単独でソリューションを開発することは困難です。したがって、エコシステム、コンソーシアム、患者に関するデータや知見などを、さまざまな強みを持つ企業と共有する方法が非常に重要になってくるため、このようなプログラムを立ち上げることとしました。

昨今のデジタル化の広がりは、ライフサイエンス業界を劇的に変える可能性があるため、バイエルは効果的で安全な医薬品を提供するだけでなく、患者が必要なもの、必要な方法、患者への提供方法など、エコシステム全体にうまく適合した治療法を追求していくとのことです。

② One Drop社との共同開発の推進

バイエルは、糖尿病やその他の慢性疾患の患者向けのデジタルソリューションを開発しているOne Drop社と、複数の領域のデジタルヘルス製品を共同開発することとしました。この共同開発は、One Drop社の個別化されたセルフケア・プラットフォームをベースに進めるもので、患者が自身の健康を管理できる統合サービスの提供が目的です。

One Dropのデジタルヘルスプラットフォームは、2016年から保険会社や医療機関などに提供されており、300万回以上ダウンロードされています。そのユーザーから得られた130億以上もの健康データを活用したプラットフォームにより、ユーザーの健康状態を予測し、適切なタイミングで適切な支援を行うことができます。

One Dropは主に、糖尿病、糖尿病予備軍、高血圧、高コレステロールおよび、これらの組み合わせの疾患の健康管理を対象としてきましたが、今回の提携でバイエルが注力している心臓病、腫瘍、婦人疾患の分野への拡大が可能となりました。バイエルは、「今回の提携でデジタルヘルス事業の進化をさらに加速させ、新たな患者サービスの提供への道を開くことができる」と述べています。

③ Exscientia社との提携

バイエルは、人工知能(AI)を活用した創薬企業であるExscientia社と、心血管疾患および腫瘍の創薬に関する共同研究を進めることとなりました。両社は、Exscientia社が独自に開発したAI創薬プラットフォームCentaur Chemistや医薬品設計のノウハウと、バイエルの持つデータや創薬能力を組み合わせて、研究プロジェクトに取り組みます。

プロジェクトの目的は、心血管疾患や腫瘍疾患を治療するための新薬候補化合物の構造を発見し、その最適化を行うことです。医薬品の開発は、初期の研究から承認まで10年以上かかるのが一般的ですが、開発プロセスでAIを活用することで、創薬を加速し、品質、コスト、サイクルタイムの面で医薬品開発の生産性を向上させることが期待されています。AIを使った創薬は各社で研究されており、バイエルでも強固なAIベースのパイプラインを確立し、新たな治療領域に取り組むべく、さまざまなデジタル企業との協業を模索しています。

2) 女性の健康のためのデジタルアプリの開発

バイエルは、女性向けデジタルヘルスツールのニーズに応えるため、子宮内膜症の健康管理を支援するアプリ「Bare Your Pain」と、チャットボット「Ask Tanu」を発表しました。

「Bare Your Pain」は妊娠可能な年齢の女性の10%が罹患していると言われる、子宮内膜症のような痛みを伴う慢性疾患を対象としています。このアプリは、子宮内膜症の患者が症状をよりよく管理・把握できるようにすることを目的としています。患者が自宅で健康を管理するための情報を提供し、症状の進行状況を監視できるようにすることで、医師の診察を受ける際にスムーズな意思疎通が可能になります。

子宮内膜症では症状の管理が非常に重要ですが、患者の多くは自身の現状をはっきりと説明できません。しかし、このアプリは患者の意識を向上させ、より質の高い生活を提供できるようになることが期待できます。

また、女性の健康を守るには、避妊や家族計画に関する意識を高める必要がありますが、このような会話は避けがちなのが実情です。チャットボット「Ask Tanu」は、避妊やリプロダクティブヘルス(生殖に関する健康)に関する正しい情報を提供することを目的として開発されました。

デリケートな話題は友人に聞いたり、インターネットで情報を調べたりする方が安心できます。Ask Tanuは、オンラインでの1対1の対話を提供してくれます。このようなプライベートなサービスにより、女性が自分の健康状態について気軽に質問し、科学的に検証された情報源から正確な答えを得ることができます。

3) 薬事部署の業務効率化システムの共同開発

弊社、株式会社piponがバイエルさんのオープンイノベーションプログラムに採択されました!
バイエル薬品 G4A Tokyo Dealmaker 2020に株式会社piponが採択

医薬品の品質を確保するため、原薬の試験方法について、ヨーロッパ・アメリカ・日本、それぞれで基準が異なるため、公定書から試験の比較表を作成する必要がありました。

この比較表作成は手作業で行われており、3時間ほどの工数が掛かっていました。
これをルールベースのプログラムを組むことで、自動化するシステムを共同開発しようとしております。

こちらリリースできましたら、big data toolsでも発表させて頂きます!!

おわりに

今回は、バイエルのDX戦略を紹介しました。他の製薬会社と同様に、バイエルもパートナーシッププログラムの立ち上げやデジタル企業との協業など、デジタル技術を使った新たなソリューションの開発を進めています。バイエルは、ヘルスケアだけでなく農業関連でもビジネスを展開しており、幅広い分野でデジタルソリューションの開発を進めているので、その動向は大変興味深いと言えます。

参考サイト

Bayer looks to digital partnerships to expand efforts in cardiometabolic care, oncology and women’s health

One Drop Announces Nearly $100M Financing And Commitments By Bayer

Exscientia lands multi-million euro deal with Bayer

Bayer Launches Digital Women’s Health Tools to Meet Growing Needs

Bayer launches ‘Bare Your Pain’ mobile application to help women manage endometriosis