アッヴィのDX戦略を解説

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北爪 聖也

株式会社pipon代表取締役。 キャリアはADK(広告代理店)でテレビ広告運用をして残業120時間するが、ネット広告では自分の業務がAIで自動化されていることに驚愕する。そこで、機械学習受託会社に転職し、技術力を身につけた後、piponを創業。現在、製薬業界、大手監査法人、EC業界、様々な業界でAI受託開発事業を運営。

アッヴィのDX戦略を解説

はじめに

今回は、米国の製薬大手であるアボット・ラボラトリーズから2013年に分社独立した、アッヴィが推進するDX戦略を解説します。近年、製薬業界でもデジタル技術を使った創薬プロセスや治療アプリなど新しいソリューションが開発されており、各社の競争はますます激しくなっています。アッヴィでも、ウェアラブルデバイスの開発などデジタル技術を使ったさまざまなソリューションを発表しています。今回は、アッヴィで推進しているDXの取り組みを見ていきます。

アッヴィにおけるDX推進の取り組みについて

製薬業界では、デジタル化の第二波が来ていると言われています。第一波では、紙に残していた情報を双方向の資格情報に変換するなど、「デジタル化」に重点を置いたもので、業務プロセスの抜本的な変革には至りませんでした。昨今の第二波は、3つの要因で推進されています。第一は、デジタル化への取り組みが、経営幹部にとってますます重要になっていることです。彼らは単に競争上の優位性を得るためだけではなく、デジタル化による市場の支配を狙っているのです。第二に、人工知能(AI)の有用性が製薬業界のデジタル化の軌道を変えつつあることです。数年前には考えられなかった新しいソリューションが、多数開発されています。第三に、デジタル化の範囲は非常に幅広くなりつつあり、既存のビジネス機能を変革するだけでなく、デジタル医療やデジタル治療薬を通じて新たな収益源を創出することも可能になっていることです。
アッヴィでは、第二波に乗り遅れないよう、多方面でデジタル化を進めています。

1) デジタルヘルスの取り組み

近年、デジタルヘルスが注目されており、Fitbitなどのウェアラブルデバイスのように、我々にとっても身近なものになりつつあります。アッヴィは、デジタルヘルスの真の力は、臨床試験を変革することにより、患者の疾病からの回復を助けられることだと考えてます。デジタルヘルスを技術的に定義すると、モバイルヘルス、健康情報技術、ウェアラブルデバイス、遠隔医療、遠隔医療、個別化医療のことですが、これを簡単にまとめると、生活の質を向上させるための個人データの力と言えます。体温を測定するための皮膚パッチなど、デジタルヘルスの技術は、その人の現在の健康状態をデータで把握することで、将来の健康問題の予測につなげることができます。
アッヴィでも臨床試験にデジタルヘルスを取り入れていますが、この取り組みを始めた理由は非常にシンプルなもので、患者にとってメリットが非常に大きいので、従来の臨床試験手法をデジタルソリューションに置き換える必要があると感じたからとのことです。
ここで、特にウェアラブルデバイスの取り組みの例を見てみましょう。

①アトピー性皮膚炎患者を対象としたウェアラブルデバイスの活用事例

アトピー性皮膚炎の患者にリストバンド型常時モニターを装着してもらい、睡眠中に無意識に体を掻きむしった頻度と時間を測定しました。アトピー性皮膚炎の患者は、掻きむしりが睡眠を妨げていることに気づいていないことが多いですが、睡眠の妨げは深刻な健康問題につながります。アッヴィは数人の患者に対してこの調査を行うだけで、施した治療が患者にどのように働いているかについて、しっかりしたデータを集められることが分かりました。この方法により、患者は正式な睡眠テストのために、臨床試験の会場へわざわざ足を運ぶ必要はなく、医師はデータをリモートで取得することが可能となりました。

②進行性パーキンソン病患者を対象としたウェアラブルデバイスの活用事例

進行性パーキンソン病患者を対象とした試験では、ウェアラブルデバイスで歩行と睡眠の測定が行われました。これは、従来の紙やペンを使った方法では、とても難しかった測定です。手首と足の動きを測定することで、例えば24時間のうち、どれくらいの時間で患者が振戦を起こしているかを検出することができました。その他にも、患者の歩行が良好であるかどうかや、治療薬がその効果をどのように失うかなどを判断することも可能になりました。現在はワイヤレスパッチ型のデバイスに置き換えられており、患者にとってはより快適で、邪魔にならないデバイスになっています。

このように、ウェアラブルデバイスを用いることで、従来は難しかった難しかった測定が可能となったわけですが、患者が臨床試験に参加しやすくなるというメリットも生まれます。
例えば、臨床試験に参加しようとすると、会場まで距離があるなどで参加できる患者が限られてしまいます。臨床試験への参加者が少ないと、新しい治療法を確立するスピードにも影響を及ぼします。
しかし、ウェアラブルデバイスを使って、24時間いつでもデータを収集できるバーチャル治験サイトを活用することで、多くの患者が臨床試験に参加することが可能となります。
アッヴィでは、新しいデジタル臨床試験に対応すべく、14,000件の臨床試験と3,200万人の臨床試験参加者を含むデータベースと、何億人もの患者の電子カルテから得られたリアルワールドデータを備えた「デザインラボ」を新たに開設しました。デザインラボがデジタルデータを関係者に提供することで、効果的な臨床試験の実施に貢献しています。

2) DXによるカスタマーエクスペリエンス(CX)の変革

アッヴィでは、DXにより新しいCXを提供する取り組みを進めており、特にデータとその分析に重点を置いています。CXとは簡単に言うと、顧客が商品やサービスを体験して、顧客視点でその価値を評価することです。
従来、製薬会社のデータは企業内や代理店など、あちこちに存在していましたが、近年のDXにより一元管理が可能となりました。顧客体験を構築する責任は製薬会社自身にあるため、自社のデータを社内に取り込んで、そのデータへアクセスしてデータの素性を理解し、顧客体験の構築と管理を進めています。
また、これまでマーケティングをチャネル別に整理していましたが、チャネルをまたいで一貫してリンクできる形で全体を見る必要があります。また、オムニチャネルのCXには、利用可能な顧客データを活用して顧客の嗜好を予測するために、高度なデータ分析やAIを活用する必要があります。そこで、アッヴィでは、チャネルをまたいだ調整を組織的に行えるよう、クロスファンクショナルな組織への見直しを進めているとのことです。
いずれにしろ、顧客をセグメンテーションするための従来の市場調査に基づいたアプローチでは、デジタル空間で勝つには十分ではないとのことで、継続的にCXの変革を進めています。

3) 患者参加型モバイルアプリの導入

アッヴィは患者参加型モバイルアプリの導入にも取り組んでいます。このアプリは、診療予約や服薬遵守などの支援を提供することで、患者の臨床試験への参加を促進します。また、このアプリは、診察内容の連絡や、診察の準備として何をする必要があるのか(例えば、絶食)を患者に伝えてくれます。アッヴィの言うモバイルアプリには、eConsent(電子的同意取得)、ePRO(患者報告アウトカム電子システム)、eCOA(電子臨床アウトカム評価)も含んでいるとのことで、モバイルアプリの開発も積極的に進めています。

おわりに

今回は、アッヴィのDX戦略を紹介しました。アッヴィではその機動力の高さを生かして、デジタル技術を使った色々な取り組みを進めています。製薬業界では、大小さまざまな企業がDXに取り組んでいますが、アッヴィの多彩な取り組みにも是非注目しましょう。

参考サイト

How digital health will change everything.

Q&A with AbbVie: Powering CX innovation with digital transformation

AbbVie Goes All-In On Wearables And Digital Technologies