エーザイ株式会社のDX戦略を解説

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北爪 聖也

株式会社pipon代表取締役。 キャリアはADK(広告代理店)でテレビ広告運用をして残業120時間するが、ネット広告では自分の業務がAIで自動化されていることに驚愕する。そこで、機械学習受託会社に転職し、技術力を身につけた後、piponを創業。現在、製薬業界、大手監査法人、EC業界、様々な業界でAI受託開発事業を運営。

はじめに

今回は、製薬大手のエーザイ株式会社(以下、エーザイ)が推進しているDX戦略を解説します。DXとは「デジタルトランスフォーメーション」の略で、企業がIT技術を利用して事業の業績や対象範囲を根底から変化させ、競争上の優位性を確立することを指します。製薬業界でも国内外を問わずDXの取り組みが進められており、競争がより熾烈になっています。
今回は、製薬大手のエーザイで推進しているDXの取り組みを見ていきます。

製薬業界におけるDX推進の動向について

エーザイのDXの取り組みを見る前に、製薬業界全体でどのような動きがあるか見てみましょう。さまざまな取り組みがされていますが、ここでは3つの分野を紹介します。

1) MR・MS活動

MRと言えば、病院を訪問して自社製品を売り込む営業スタイルが一般的ですが、新型コロナの影響で、病院の訪問が難しくなっており、リモートを活用した活動へ切り替えている会社が多くなっています。
また、新人MRの研修も従来の対面の研修が難しくなっており、リモートでの研修が当たり前になってきている状況です。
リモートの有効性が認識されつつあり、新型コロナが収まっても、引き続きリモートでの活動が続くものと推測できます。
また、新型コロナ騒動を機に、MS(医薬品卸の販売担当者)の機能の一部をオンラインに移行させ、付加価値の高い提案活動などの業務に注力したり、MSが得意先の要望に応じてバーチャルMRにつなぐ、といった取り組みも進められています。

2) Webサイトでのチャットボットの活用

顧客からの問い合わせに対して的確にかつ、タイムリーに情報を提供できるよう、Webサイトにチャットボットを導入する製薬会社が増えています。チャットボットの導入により、人のオペレーターを減らすことができるため、コスト削減に大きな期待が寄せられています。

3) 新会社設立

塩野義製薬とエムスリーが、「ストリーム・アイ」という合弁会社を立ち上げています。ストリーム・アイ社は、塩野義製薬のMRが行う従来の情報提供と、エムスリーの持つデジタル技術を組み合わせた新しい情報提供モデルの確立を目指しています。

エーザイにおけるDX推進の取り組みについて

それでは、エーザイのDX推進の取り組みを見ていきましょう。エーザイでは、デジタルを活用した医療従事者に対する情報提供の質的向上を図っており、さまざまな取り組みが進められています。

1) 新たなCRM(カスタマーリレーションマネージメント)の構築

CRMとは、顧客を中心に考えてビジネスを展開し、利益の最大化を目指すマネジメントの手法のことです。
エーザイでは、CRMを実行したり、支援したりできるツールやプログラムを整備し、デジタルによる情報伝達力の充実を狙っています。また、新型コロナで病院や調剤薬局への訪問が制限されているMR活動について、このCRMを活用してKPIの把握に役立てようとしています。

2) デジタルマーケティングの充実

製品の情報を専門家へ提供するのに、従来の対面だけでなく、デジタルツールを駆使することも進められています。また、医療機関が持っているレセプトなどのリアルワールドデータ(RWD)を、医療機関とともに一緒に解析し、解析結果を生かして新しい価値(転倒防止システムなど)を見いだそうとしています。

3) デジタルソリューションの提供

デジタルソリューションを提供すべく、患者のさまざまなデータを使って、患者の日常生活を改善できるモデル構築を目指しています。また、同社の主要製品に関するデジタルソリューションやP3(Participation, Prediction, Prevention)の実現に貢献できる、疾患領域アプリの導入、企画、推進などを行っています。

4) リモートMRの拡充

他社と同じく、リモートMRの拡充を進めており、インターネットライブセミナー、オンライン会議でのMRと医師との面会を進めています。今後のMR活動については、対面での情報提供や情報収集を中心とした従来の営業体制から、デジタルによる双方向情報提供体制への転換を図っています。

5) 人工知能を活用した各種システムの構築

パンデミック、気候変動、自然災害など、さまざまな要因による需要の変化を人工知能が予測して、原料の調達から生産、出荷までの最適な計画を策定し、それを実行する仕組みを早急に構築する必要性を強調しています。
また、脳の健康度の維持向上に役立つ、認知症プラットフォームポータルサイト「easiit」を活用し、患者や家族との双方向の情報提供体制の構築を進めています。

6) ITマネジメント組織の整備

エーザイでは、日米欧アジアの地域ごとに個別のIT組織を持ち、日本の本社がマネジメントして互いに協力し合う、いわゆる連邦型の組織が構築されています。ITに関してはグローバルなコミュニケーションが活発になされており、地域ごとに適材適所でITの確立、運用が推進されています。
日本のIT人材は、ビジネスコンサルタントとして、ユーザーとビジネスについて議論し、新たな方法を見つけられるように育成が進められています。
また、グローバルな製品開発、デマンドチェーンの拡充、需要の変化への速やかな対応などを実現するために、業務やアプリケーションの標準化、迅速な経営判断に役立つ情報を提供できるよう、グローバルで人員配置や人件費、製造原価の把握、ERPの標準化を始めています。

7) IT人材の能力強化

エーザイには、EVBIS(エーザイ・ビジネス・バリュー・インフォメーション・システム)というシステムがあります。これは、ITの活用によってビジネスの価値を増やせる方法を書式化し、これを基にITを活用してどのような効果が出せるかを議論できるようにしたシステムです。
例えば、情報システム部門の人材に対して、この書式を活用してビジネス部門とともに効果を生み出せるスキルを4段階で定め、情報システム部門の一人ひとりが、自身の現在のスキルレベルを認識し、今後、能力を充実させる方法を明確化できるようにしています。

おわりに

今回は、エーザイのDX戦略を紹介しました。エーザイは、2019年に経済産業省と東京証券取引所が選定する「攻めのIT経営銘柄2019」に、製薬企業として初めて選ばれており、製薬業界の中では、ITを積極的に取り入れている企業です。現在は、新たなエコシステムの構築とDXの推進であり、その動向は各社から注目を集めています。

参考サイト

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