大日本住友製薬のDX戦略を解説

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北爪 聖也

株式会社pipon代表取締役。 キャリアはADK(広告代理店)でテレビ広告運用をして残業120時間するが、ネット広告では自分の業務がAIで自動化されていることに驚愕する。そこで、機械学習受託会社に転職し、技術力を身につけた後、piponを創業。現在、製薬業界、大手監査法人、EC業界、様々な業界でAI受託開発事業を運営。

はじめに

今回は、国内大手の製薬会社である大日本住友製薬株式会社(以下、大日本住友製薬)が推進するDX戦略を解説します。
同社は精神神経領域に強みがあり、最近はがん領域の立上げを目指して開発を推進しています。また、再生・細胞医薬分野の研究も進めており、これら3つの領域を重点領域と位置づけています。
さらに、医薬品以外のヘルスケア領域でも、課題解決のための新たなソリューションの提供を目指しており、デジタル技術も活用しながら活発な研究が進められています。
今回は、大日本住友製薬で推進しているDXの取り組みを見ていきます。

大日本住友製薬におけるDX推進の取り組みについて

大日本住友製薬では、他社と共同でデジタル機器の開発を進めて介護領域での事業化を進めたり、管理指導用のモバイルアプリを共同で開発したりなど、DX推進のためのさまざまな取り組みを進めています。
特に、精神神経領域と糖尿病領域において、国内売上総益No1を目指しており、各種アプリやデジタル機器を活用して、医療従事者や患者の満足度向上につながるソリューションの開発・提供することを活発に検討しています。

1) 各種機器・アプリケーションの開発推進

①認知種支援機器の開発

大日本住友製薬は損保ジャパン、デジタルヘルステクノロジー企業Aikomi社と共同で、認知症患者向けのデジタル機器について、研究開発と事業化を進めています。大日本住友製薬とAikomiは先行して、認知症に伴ううつ症状、不安、攻撃性、などの周辺症状(BPSD)を緩和させるデジタル医療機器の共同研究を進めていました。本機器により、音楽療法や回想法など複数の非薬物療法の組み合わせの療法(認知活性化療法)の提供を目指しています。
一方、損保ジャパンは軽度の認知障害の早期発見や、認知機能低下の予防など、認知症分野での課題解決に取り組んでいるため、認知症の介護領域における事業性の検討に強みを持っています。
認知症は医療だけでなく、介護や生活支援の観点からのアプローチも重視されています。医療面の開発を進めていた大日本住友製薬とAikomiに、介護面から取り組んでいた損保ジャパンが加わることで、介護領域でのビジネスを加速させることが期待できます。
高齢化が進む日本においては、認知症への対応が大きな課題となっています。特に、本デジタル機器が対象としているBPSDは、患者だけでなく、介護者や医療従事者にも大きな負担を与えるものです。
3社が提携して、デジタル機器を使った個別サービスを提供することで、患者だけでなく介護者の負担が軽減することが望めます。

②糖尿病管理指導用アプリの開発

大日本住友製薬はSave Medical社と、2型糖尿病を対象とした糖尿病管理指導用のアプリケーションを開発しています。このアプリケーションは、医師の指導の下で使用されるもので、患者の自己管理を支援して患者の行動変容を促し、臨床的指標が改善されることを目指します。
具体的には、食事や体重などの生活習慣、血圧や血糖値などの各種指標をアプリに入力すると、入力情報に応じて行動変容につながるメッセージを自動で送付するものです。入力が患者の負担にならないよう、テキスト入力を極力少なくする工夫がなされています。
患者個人にマッチした情報を提供することで、生活習慣の乱れや服薬不良への行動認知が高まり、行動変容が促されることで、各種臨床指標が改善されることを狙っています。
現在、本アプリの有効性と安全性を評価するために国内治験(フェーズ3試験)を始めています。治験ではHbA1c (糖化ヘモグロビン量の割合)のベースラインからの変化量を主要な評価項目とし、標準治療群と標準治療とアプリを併用した群で、群間の比較を行うことになっており、医療機器プログラムとして2022 年度中に日本での承認取得を目指して、評価が進められています。

2) テクノロジープラットフォームの拡充

大日本住友製薬は、欧州の製薬ベンチャーであるロイバントサイエンシズ社と提携する契約を結びました。本提携により、人工知能(AI)やIT技術を生かしたテクノロジープラットフォームとデジタル人材の獲得につなげることを目指しています。
大日本住友製薬は、ロイバントサイエンシズ社が所有する2つのヘルスケアテクノロジープラットフォーム「DrugOme」 「 Digital Innovation」を取得しました。
DrugOmeは、独自のデータ分析でパイプラインを獲得し、臨床開発を加速させるプラットフォームです。DrugOmeを使うことで、計算科学によりコンピュータの中で薬を創るインシリコ創薬、ビッグデータを活用した臨床試験の最適化、自社データとリアルワールドデータを組み合わせたエビデンスの構築、ビッグデータを活用した事業性評価の緻密化などにつながることが期待できます。
Digital Innovationは、IT技術を使ってビジネスプロセスを最適化できるプラットフォームです。Digital Innovationを使うことで、業務プロセスがデジタル化してスピードと品質を向上、複数部⾨にまたがるデータや社外データの活⽤による新たな知⾒や成果の創出などが期待できます。
あわせて、社内にDrugOmeとDigital Innovationを推進する専門の部⾨を新設し、ロイバントサイエンシズ社からこれらのテクノロジーに関連する人材も得て、DXの加速を図っています。

3) AI創薬への積極的な取り組み

大日本住友製薬は、AI創薬にも積極的に取り組んでいます。例えば、英国のAI創薬企業エクセンシア社と協働で、強迫性障害治療薬の開発を進めています。強迫性障害とは、強迫観念や強迫行為で1日1時間以上の時間を浪費し、生活の質の低下をもたらす精神疾患です。候補となる化合物の探索研究は4年半程度を要すると言われていますが、大日本住友製薬の経験や知識と、エクセンシア社のAI創薬プラットフォーム「Centaur Chemist」を融合させることで、化合物の探索を12ヵ月未満で終えました。
大日本住友製薬は、精神神経領域を研究重点3領域の一つとしており、この領域で開発パイプラインを拡充できたことは、大きな成果と言えます。

おわりに

今回は、大日本住友製薬のDX戦略を紹介しました。大日本住友製薬は、海外のさまざまな企業と協働して、業容拡大を狙っています。大日本住友製薬では、精神神経領域、がん領域、再生・細胞医療分野を研究重点領域としていますので、今後、特にこれらの領域でデジタル技術を使った変革が起こることが期待されます。

参考サイト

大日本住友 Aikomiと共同研究の認知症デジタル機器で損保ジャパンと連携 介護領域の事業化加速

大日本住友製薬、損保ジャパン、Aikomi認知症・介護関連のデジタル機器の研究開発、事業化に向けて連携

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