医薬業界のデータ解析

アステラス製薬のDX戦略を解説

はじめに

今回は、国内大手の製薬会社であるアステラス製薬株式会社(以下、アステラス製薬)が推進するDX戦略を解説します。アステラス製薬は国内屈指の営業体制を持つ会社で、連結売上高は首位の武田薬品工業に次ぎ、国内第2位の製薬会社です。
他の製薬会社と同じく、アステラス製薬もDXを積極的に推進しており、人工知能(AI)を活用した創薬研究など、デジタル技術を積極的に取り込んでいます。
今回は、アステラス製薬で推進しているDXの取り組みを見ていきます。

アステラス製薬におけるDX推進の取り組みについて

アステラス製薬では、ゲーム会社と運動支援アプリの開発を進めたり、地方公共団体と共同でデジタル技術を活用した新たなサービスを模索したりなど、DX推進のためのさまざまな取り組みがなされています。

1) 各種アプリケーションの開発推進

①運動支援アプリの開発

アステラス製薬は、株式会社バンダイナムコエンターテインメントと共同で、スマートフォン向けに生活習慣病を予防するための、運動支援アプリの開発を進めています。具体的には、ゲーム性を取り入れて、運動プログラムを提供するとともに、利用者が運動を継続できるように支援するアプリです。将来は、保険ができるよう開発を進めるとのことです。
アプリに搭載する運動プログラムが、利用者の身体に与える影響を調べ、体脂肪率や内臓脂肪面積などに効果が見られれば、本格的にアプリの共同開発を行っていきます。
アステラス製薬が運動プログラムを立案し、バンダイナムコが運動を継続できるしくみやアプリケーションサーバーの管理を担当します。
アステラス製薬では、最先端の医療技術と異分野の先端技術を融合させ、診断から予後管理までを含む医療シーン全体において、患者に貢献できる事業を「Rx+事業」と名付けて事業創出を進めていますが、本アプリの開発はRx+事業の一環として取り組まれています。

②糖尿病自己管理アプリの展開

アステラス製薬は、米国ウェルドック社が開発した糖尿病を管理するデジタル治療(DTx)「BlueStar(ブルースター)」を、日本や一部のアジア地域で商業化すべく、同社と契約を結びました。DTxとは、デジタル技術を使って疾患の予防、診断、治療などの医療行為を支援したりするソフトウエアのことで、DTxと宣言するためには医療的な効果のエビデンスが必須で、当局の承認が必要です。
さて、BlueStarは1型と2型の糖尿病患者を対象に、患者の自己管理を支援するDTxです。糖尿病の患者が血糖値などのデータをアプリに入力すると、データに基づいて適度な運動や、バランスの取れた食事を促すメッセージを発信します。発信内容は、入力データや治療データから機械学習で構築したモデルに基づき、それぞれの患者に合わせたものです。本アプリは医療機器として、すでに米国食品医薬品局(FDA)に承認されています。
アステラス製薬はウェルドック社と共同で、BlueStarの商業化を目指していきますが、さらに、糖尿病以外の疾患を対象にしたDTxの開発も進めていくとのことです。アステラス製薬は、DTxの開発を推進する「日本デジタルセラピューティクス推進研究会」のメンバーであることから、今後もDTxの開発を積極的に進めていくことが予想されます。

2) 社外のデジタルソリューションの有効活用

アステラス製薬は、エムスリー社が提供する「my MR君」を使うことで、MRがリモートで自社の製品情報を医師に提供する体制を整備しました。
「my MR君」とは、MRがウェブ上でターゲットとする医師と直接コミュニケーションを取れるプラットフォームで、医師に対してMRがリモートで情報提供するのをサポートするサービスです。
新型コロナウイルスのまん延で対面でのコミュニケーションが困難となる中、オンラインをうまく取り込むことで、営業範囲の拡大、コミュニケーションの維持・強化、MR配分の最適化などを狙っています。
この取り組みは、アステラス製薬のMRのほぼ100%をカバーしており、新型コロナウイルスによる医療提供体制が変化している状況で、MRの感染リスクを抑えつつ、適切でタイムリーな情報提供を実現します。
また、この取り組みをきっかけにして、新型コロナウイルスの影響で一層重要となるDXを加速させ、MRの生産性向上と新しい情報提供体制の構築を目指そうとしています。

3) AIを活用した新薬開発の加速

①エリックス社との共同開発

アステラス製薬は、AI開発のエリックス社と共同で、AIを使った創薬のアルゴリズム開発を開始しました。これは、エリックス社が開発したアルゴリズムと、アステラス製薬の持つ創薬データをを活用して、新たな創薬技術を開発する取り組みです。
従来の新薬開発プロセスは、さまざまな構造の組み合わせの中から、狙った薬効が期待できる組み合わせの化合物を、研究者が見つけ出す必要がありました。
AIで開発したアルゴリズムを使うことで、候補となる化合物が人体に与える影響を予測し、薬効が現れそうな化合物や、その化合物の基となる分子の候補を絞り込むことが可能となります。それにより、膨大な時間がかかる開発プロセスの短縮が期待できます。
エリックス社では、公開されている創薬データを使って、汎用のアルゴリズムを開発していますが、アステラス製薬独自の製薬データをアルゴリズムに学習させることで、アルゴリズムの精度向上を目指しています。

②インシリコ・メディシン社との共同開発

アステラス製薬は、開発が難しいとされている疾患を対象とする新薬の開発を加速させるため、AI開発のインシリコ・メディシン社と共同で研究を始めました。前述のエリックス社との取り組みと同じように、インシリコ・メディシン社の持つAI技術と、アステラス製薬の創薬に関する豊富な専門知識を活用するものです。
インシリコ・メディシン社のアルゴリズムは、ゼロショット学習、メタ学習、遺伝的アルゴリズム、強化学習などを使って構築しており、アンメットメディカルニーズのある疾患に対する新たなアプローチになることが期待できます。

おわりに

今回は、アステラス製薬のDX戦略を紹介しました。アステラス製薬は、社外のさまざまなIT企業と提携して、事業の変革を試みています。AI開発企業との共同研究による、新たな創薬プロセスの構築は大変興味深いものであり、新薬の開発プロセスがどのくらい効率的になるか、注目しましょう。

参考サイト

アステラスとバンダイナムコ 運動支援アプリの21年度中の試験販売目指す

アステラス製薬、糖尿病の治療用アプリを国内提供へ

アステラス製薬、リモートディテーリングサービス「my MR君」によるMRからの情報提供を開始 ~デジタルトランスフォーメーションの加速を支援~

エリックス、アステラス製薬とAI創薬を共同研究

インシリコ・メディシンとアステラス製薬は従来困難とされる標的群にAIを活用した創薬で共同研究開始

ABOUT ME
北爪 聖也
ダメ営業マンからデータサイエンティストへキャリアチェンジ。 技術とビジネスサイドの橋渡しが出来るため、ダメ営業マンの経験も役に立ちました。 広告代理店ADKにて3年勤務→データ分析受託の会社DATUM STUDIOにて1.2年勤務後、独立。
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