大塚製薬のDX戦略を解説

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北爪 聖也

株式会社pipon代表取締役。 キャリアはADK(広告代理店)でテレビ広告運用をして残業120時間するが、ネット広告では自分の業務がAIで自動化されていることに驚愕する。そこで、機械学習受託会社に転職し、技術力を身につけた後、piponを創業。現在、製薬業界、大手監査法人、EC業界、様々な業界でAI受託開発事業を運営。

はじめに

今回は、国内大手の製薬会社である大塚製薬株式会社(以下、大塚製薬)が推進するDX戦略を解説します。
同社は、精神疾患、神経疾患、がん・免疫を最重点領域としており、それらに加えて、循環器・腎、感染症、眼科、皮膚科領域を中心に医薬品の研究開発を行っています。
他社と同様に、大塚製薬もデジタル技術を活用した事業に取り組んでおり、従来の伝統的な創薬に加えて、新たなソリューションを提供することで業容拡大を図っています。
今回は、大塚製薬で推進しているDXの取り組みを見ていきます。

大塚製薬におけるDX推進の取り組みについて

大塚製薬では、海外のデジタルメディスンメーカーを買収したり、他社と共同で通信機能付きの服薬支援モジュールを開発したりなど、DX推進のためのさまざまな取り組みを進めています。大塚製薬は、「世界の人々の健康に貢献する革新的な製品を創造する」を経営哲学として掲げており、デジタル技術も生かして革新的な製品やサービスの創造を狙っています。

1) デジタルメディスンの開発

大塚製薬は、米国のプロテウス社と共同でデジタルメディスン「エビリファイ マイサイト」を開発していましたが、これがデジタルメディスンとして、世界で初めて米国食品医薬品局(FDA)から承認を獲得しています。
「エビリファイ マイサイト」は、医療機器と医薬品を一体化して開発されており、患者に新たな価値を提供できる医薬品として注目を集めています。具体的には、大塚製薬が創薬した抗精神病薬エビリファイの錠剤に、プロテウス社が開発した摂取可能な砂粒ほどの極小センサーを埋め込んだ錠剤です。本錠剤を服用すると胃の中で胃液に反応して信号を発信し、患者に貼付したパッチ型のシグナル検出器で検出して、服薬日時を記録します。この検出器は受信した服薬情報に加えて、患者の活動状況などのデータも記録しており、それらの情報を専用のアプリに送信します。その後、胃の中のセンサーは消化・吸収されることなく、安全に体外に排出されます。そして、アプリは検出器からの情報を受信するとともに、患者が手入力でその時の気分など各種情報を入力することができ、これらの情報は、スマートフォンなどのモバイル端末を通して、医療関係者や介護者との共有が可能となります。
このシステムを使うと、服薬や患者の活動状況が記録に残るので、患者、医療関係者、介護者間のコミュニケーションが活発になり、各患者にマッチした治療計画につなげられます。
医師の指示通りに患者が薬を飲まないことは、長年の問題です。正しく服薬しないと、治療効果が上がらずに病気が悪化するだけでなく、医療費も膨らむという経済上の問題も大きくなります。
これまで、精神疾患の治療では、服薬状況を効果的に記録できる体系的なアプローチはありませんでしたが、本システムにより特に重篤な精神疾患の患者への有効性が期待できます。
なお、センサーとアプリの開発を担当していたプロテウス社は、資金繰りが悪化し、倒産の危機に瀕していたため、大塚製薬が買収することになりました。大塚製薬は格安でデジタルヘルス企業を獲得できたことになり、さらなるデジタルメディスンの開発につなげられる見込みです。

2) IoT薬箱の開発

大塚製薬はNECと共同で、服薬を支援する服薬支援モジュールを開発しました。これは、脳梗塞再発抑制薬プレタールOD錠100mgが入ったプラスチックの専用容器に取り付けて使う、専用の通信機能付き服薬支援モジュールです。
服薬の時間になるとLEDが点滅し、患者に服薬のタイミングを教えてくれます。容器から錠剤を取り出すとLEDが消え、錠剤を取り出した履歴を自動保存するとともに、取り出したタイミングをスマートフォンのアプリに送信します。このアプリから、医療関係者や介護人に服薬したことを通知することだけでなく、医療関係者は患者のスマートフォンから服薬履歴を読み込むこともできます。もし、規定の時間に錠剤を取り出さなかったら、その旨を関係者に通知することも可能です。
脳梗塞の患者は、服薬をうっかり忘れたり、自己判断で止めたりなどで、半年で服薬率が約5割に低下すると言われています。
また、国は、高齢者は病院ではなく、自宅や地域で療養・生活できる体制を促進しています。薬を正しく飲み続けられれば、日常生活に支障なく自宅で暮らせる高齢者も多いはずです。
今回開発されたIoT薬箱により、服薬率の低下を抑え、病状の安定化につながるとともに、患者のQOLの向上や介護人負担の軽減が期待できます、今後も、IoTを生かしたさまざまな服薬支援ソリューションが開発され、普及していくことは間違いないでしょう。

3) データ分析ソリューションの開発・販売

大塚製薬は、日本IBMと合弁会社「大塚デジタルヘルス」を設立し、データ分析のソリューション「MENTAT」の販売を進めています。
MENTATは精神科をターゲットに、IBMの人工知能Watsonの技術を取り入れている電子カルテのデータ分析ソリューションです。
精神科の電子カルテには、数値情報の記載が少なく、症状や病歴など90%以上が数値化しにくいテキスト情報と言われています。したがって、精神科の電子カルテは記録を目的とした使われ方が主で、電子カルテのテキスト情報を治療計画に生かすのは困難でした。
MENTATは、病院内の電子カルテに入力されている大量のテキスト情報を言語処理でき、処理結果をデータベース化することで、医療関係者が患者の症状を抽出することが可能になります。具体的には、電子カルテのデータを言語解析することで、入院の長期化や症状の再発につながる情報を抽出したり、症状の変化のパターンを読み取って患者に合った治療計画を立てたり、入退院を繰り返す患者の傾向を定量的に把握したりなど、医療サービスの立案や病院の経営などに役立てられます。

4) デジタル治療アプリの開発

大塚製薬の米国子会社大塚アメリカ・インクは、米国クリック社と共同でうつ病の患者向けにデジタル治療アプリケーションを開発しています。
本アプリは、さまざまな種類の顔画像によるクリック社独自のトレーニング方法を使った認知療法アプリで、患者の短期記憶を強化することで、うつ病の症状改善を狙っています。
大塚製薬は精神疾患領域を重点領域の一つに掲げており、独自のアプローチで研究開発を進めています。今回のデジタル治療アプリへの参入により、患者の満たされないニーズの解消や、精神疾患に対する新しいアプローチの開発につながることが期待できます。今後、デジタルアプリが、新たな治療オプションとして日常的に採用されるようになる可能性があります。

おわりに

今回は、大塚製薬のDX戦略を紹介しました。大塚製薬は、国内外のさまざまな企業と協働して、デジタル技術を使った新たなソリューションの開発に力を入れています。大塚製薬では、精神疾患、神経疾患、がん・免疫を最重点領域としていますので、今後、特にこれらの領域でデジタル技術を使った新しい価値の提供がなされることが期待されます。

参考サイト

大塚製薬がProteus社を廉価に買収、第一世代デジタルヘルスの蹉跌

世界初のデジタル薬事業の「異変」で揺れる大塚製薬

大塚製薬と米国プロテウス社、デジタルメディスン「エビリファイ マイサイト」の承認をFDAから取得

飲み忘れを劇的に減らせる「進化した薬箱」そのスゴイ仕組み

MENTAT®とは

デジタル治療処方アプリの開発・商業化におけるグローバルライセンス契約を締結- 大うつ病に対する世界初のデジタル治療処方アプリとして承認を目指す –

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