ファイザーの医薬品早期承認に向けた臨床アウトカム評価戦略

この記事を書いた人
北爪 聖也

株式会社pipon代表取締役。 キャリアはADK(広告代理店)でテレビ広告運用をして残業120時間するが、ネット広告では自分の業務がAIで自動化されていることに驚愕する。そこで、機械学習受託会社に転職し、技術力を身につけた後、piponを創業。現在、製薬業界、大手監査法人、EC業界、様々な業界でAI受託開発事業を運営。

はじめに

現在、ファイザーではがんや希少疾患をはじめとする医薬品の開発に力を注いでいます。またこれを実現するためにリアルワールドデータを活用しています。これは世界の臨床開発において革命的な進化に関わっています。

すでにアメリカでファイザーはその成果をあげています。そして日本でもその研究をはじめようとしています。

そのファイザーが2020年12月にプレスリリースした臨床アウトカム評価研究について、世界の動向に関連づけどのような研究か解説します。

ファイザーが実施する次世代医療基盤法に基づく臨床アウトカム評価研究の取り組み内容について

1) 日本初の次世代医療基盤法に基づいた研究

ファイザーは、2020年12月14日、日本初となる次世代医療基盤法に基づくリアルワールドデータを使った臨床アウトカム評価研究を実施するとプレスリリースしました。この臨床アウトカム評価研究としてファイザーが選んだのはがん領域で、化学療法レジメンや放射線治療などの効果、安全性などが評価対象となります。

次世代医療基盤法は、医療ビックデータといわれる電子カルテやレセプトを匿名加工するための法律です。現在、次世代医療基盤法によって認可を取得した匿名加工業者が四社あり、ファイザーが選んだのは一般社団法人ライフデータイニシアティブと株式会社NTTデータです。この二事業者も次世代医療基盤法が施行された翌年に日本ではじめて認定された事業者で、国内の臨床開発に新たな道を通す一歩としてファイザーへの期待は大きいです。

2)今回の臨床アウトカム評価研究の目的

臨床アウトカム評価研究に使われるリアルワールドデータは、すでに一部の製薬企業が製造販売後調査に活用しています。このリアルワールドデータとは、世界的に医療ビックデータの使い道を模索するなか医薬品行政の指導役のPMDA(医薬品医療機器総合機構)が収集し加工するMIDーNETの情報です。MIDーNETは、全国10拠点の医療機関からの電子カルテやレセプトなどのデータで、400万人の情報がデータベース化されています。

この一部の企業にファイザーは入っています。ファイザーが実施する製造販売後調査の対象医薬品は、乳がん治療薬イブランス(一般名:パルボシクリブ)です。イブランスは、アメリカで医療ビックデータを加工したリアルワールドデータを使い、臨床アウトカム評価をしたリアルワールドエビデンスで男性乳がんの適応拡大の承認をFDA(アメリカ食品医薬品局)から取得しています。

ファイザーはこのリアルワールドエビデンスの方法論を応用し、日本の医療ビックデータに適したアルゴリズムを調査することが、今回の研究の目的です。このアルゴリズムががん領域で一つでも確立できれば、抗悪性腫瘍薬の承認スピードがアップされると考えられています。

3)(社)ライフデータイニシアティブの役割

ライフデータイニシアティブは、2018年4月に設立した一般社団法人です。設立の目的は医療ビックデータを匿名加工することで、そしてここでアウトプットされたリアルワールドデータを製薬企業や研究機関などへ有料で提供し運営します。

この医療ビックデータを匿名加工する法律が次世代医療基盤法ですが、その認定には厳しい通過点があります。通過点とは、利用目的等審査委員会や事業計画運営などの事業内容書類の審査、セキュリティなどの実地確認の結果などを「次世代医療基盤法の認定等に関する有識者・実務者会議」で審査されることです。

この審査に通過した事業者が認定匿名医療情報作成事業者と呼ばれ、役割は電子カルテやレセプトなどの患者データを提供して貰える医療機関を訪問し契約すること、そして集まったデータを匿名加工しリアルワールドデータを作成することです。

実際にはその匿名加工する事業者はNTTデータで、ライフデータイニシアティブの監視のもと、この医療ビックデータを医療機関から提供され加工します。

現在、ライフデータイニシアティブは106施設と契約し、年間7800万人の患者データを収集できます。ファイザーは、このリアルワールドデータを活用しがんのリアルワールドデータ作り出すためのアルゴリズムを確立するのです。

4)NTTデータの役割

NTTデータは世界50ヵ国以上でITサービスと提供する企業として信頼性の高い企業です。このNTTデータは、高いIT技術を使いを持つ企業として世界で認められています。

NTTデータの設立は、日本のIT産業が発展する初期の1988年5月に設立されました。
その長い経営経験は信頼性が高く、個人情報でも他業界より患者のプライベートに深く関係するデータを取り扱うので、次世代医療基盤法による厳しい審査を受けライフデータイニシアティブと同時に認定を受けています。

NTTデータの役割は、ライフデータイニシアティブが契約した医療機関から電子カルテやレセプトなどの情報を入手し、厳しいセキュリティのもと患者の生データを匿名加工します。

このような次世代医療基盤法の認可を受けたNTTデータような事業者のことを認定医療医療情報等取扱い受託事業者と呼ばれます。ライフデータイニシアティブのパートナーと理解して良いと考えます。

NTTデータは、金融系などのシステム運用なども手掛けている信頼できる企業で、ファイザーの臨床アウトカム評価研究を進める点で重要な役割を担っています。

5) 今度のリアルワールドデータの臨床アウトカム評価研究の課題

日本の医療ビックデータを加工したリアルワールドデータの活用、まだ製薬業界のなかではファイザーに追いつこうと臨床アウトカム評価研究戦略を作成し実行使用しようする製薬企業はは数十社しかありません。

ファイザーはすでにアメリカでリアルワールドエビデンスを活用した承認を受け、日本国内にもそのIT技術を持つ込もうとしています。実際にはファイザー以外に数社しかありません。

ファイザーはリアルワールドデータの活用の世界の牽引役として、日本国内でも牽引役をはじめようとしています。世界の製薬業界のなかで、名実とともにNO1の製薬企業です。研究開発をしている医薬品もすぐれた効果をあげています。

ただし医薬品の臨床開発の決め手となる二重盲検試験は、無作為の方法を使うため後ろ向きのデータであるリアルワールドデータはいまのところ医薬品の承認に対して補助的なモデータにしかなりません。

これが臨床アウトカム評価研究の課題であり、これがアルゴリズムでどれだけ信頼性が担保できるものになるかが、今後の課題です。ただしその実現には、かなりの年月が必要だと言われています。ファイザーは国内でその成果をだせるでしょうか。

ファイザーが関わる米国と欧州におけるリアルワールデータ利活用の状況

1)米国ではリアルワールドエビデンスよって乳がん治療薬Ibranceが承認

世界でもっともリアルワールドデータの活用が進んでいるのが米国です。理由は米国の国家戦略としてリアルワールドデータのもとになるデータベースを収集したからといえます。

その結果、FDAが2018年7月に「臨床研究における電子健康切ろうデータの利用ー産業界のためのガイダンス」を発表しました。さらに翌年の5月に「医薬品および生物製剤に関するリアルワールドデータを利用した文書のFDAへの申請ー産業科医のためのガイダンス」を発表しました。

ここでファイザーは、フラットアリアン・ヘルス社の収集した匿名化されたがん患者のリアルワールドデータを活用し、乳がん治療薬イブランス(一般名:パルボシクリブ)の適応拡大で男性乳がんの承認を得て、さらに非小細胞肺がん治療薬ザーコリ(一般名:クリゾチニブ)の承認も得ています。

ファイザーは、リアルワールドデータを世界でもっとも早く採用している米国で実績をあげています。

2)欧州では市販後の安全性監視にRWDを活用

欧州においてもリアルワールドデータは、製造販売後調査や臨床開発への活用されています。欧州の場合、各国の調整が重要な鍵とため、2017年にEMA(欧州医薬品局)と欧州医薬品規制首脳会議(HMA)はビックデータタスクフォース(DBRWIN)を立ち上げました。

そのビックデータタスクフォースでは、法律、ガイドライン、セキュリティ、フォーマット、解析、アクセスなどの課題を掲げ、2023年に欧州ネットワークを開始する予定にしています。またネットワークは欧州各国との連携によるもので、完成後は米国やカナダともネットワークを繋げることを構想しています。

すでにこのネットワークの完成前に、フランスの大手製薬メーカーは製造販売後調査にリアルワールドデータを活用しています。
欧州と米国からリアルワールドデータが集まると、医薬品の臨床開発に新たな道が開くと考えられています。ファイザーは、この欧州にも自社の技術を提供することを考えているようです。

終わりに

現在、日本の電子カルテの普及率は、調査会社によると病院で43.9%、クリニックで41.6%となっています。リアルワールドデータを製造販売後調査だけでなく臨床開発データまで取り入れはじめている米国では、電子カルテの普及率がおよそ70%と日本比べて医療のIT化が進んでします。

このような状況下でもファイザーは、内資系製薬メーカーより先駆けてPMDAが運営するMIDーNETのリアルワールドデータではなく、多くの医療機関からリアルワールドデータを集めようとしています。

まずファイザーは、がん領域からはじめています。このアルコリズムができれば、今後、日本でファイザー抗悪性腫瘍薬の承認を取得するスピードが速くなります。ファイザーの信頼度は、医療機関だけでなく患者からも高くなるはずです。

参考サイト

ファイザー企業サイト

内閣府サイト

次世代医療基盤法

シードプランニング

厚生労働省サイト

FDA承認ニュース

次世代医療基盤法に関する記事

次世代医療基盤法に関する記事-2

医薬産業政策研究所

リアルワールドデータ活用