Googleのヘルスケアビジネス最前線Verilyの提供しているサービスを解説

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北爪 聖也

株式会社pipon代表取締役。 キャリアはADK(広告代理店)でテレビ広告運用をして残業120時間するが、ネット広告では自分の業務がAIで自動化されていることに驚愕する。そこで、機械学習受託会社に転職し、技術力を身につけた後、piponを創業。現在、製薬業界、大手監査法人、EC業界、様々な業界でAI受託開発事業を運営。

はじめに

今回は、2015年に設立されたAlphabetの子会社で、ライフサイエンスとヘルスケアの分野でビジネスを展開しているVerily Life Sciences社(以下、Verily)のビジネスを紹介します。VerilyはGoogleの兄弟会社ということもあり、健康に関するさまざまなデータをもとに、病気の予防などの行動につなげるためのデジタルツールを作成するなど、人々がより健康な生活を送れることを目指し、デジタル技術を前面に打ち出してビジネスを展開しています。
今回は、Verilyの持つ技術とビジネスを紹介します。

Verilyのデジタル技術を活用したビジネス

Verilyは高度なデジタル技術を有しており、新たなデジタルソリューションを提供したり、大手製薬会社と提携してしたりして、その存在感を増しています。ここではVerilyの技術やビジネスを知っていただくため、具体的なプロジェクトを紹介します。

バーチャルケアモデルの展開

Verilyは2型糖尿病患者が血糖値を容易にコントロールできるよう、2016年にバーチャルケアモデルを提供するOnduo社をサノフィと設立しました。Onduoは医療機器、行動科学、データ分析機能などを含んだ包括的なケアを提供しており、ヘルスプランやデジタルによる介入プログラムの個別化を推進しています。
米国でOnduoによるバーチャルクリニックを拡大しており、2型糖尿病のプログラム参加者の血糖値コントロールの改善を示す結果が発表されています。
具体的には、アプリで患者が食べた食事の写真を撮ると、人工知能がその食材を認識します。そして、血糖値の測定結果と食事の記録を組み合わせてデータを蓄積することで、特定の食事が血糖値の上昇を引き起こすパターンを、時間をかけてアプリが認識できるようになります。
その結果、患者は食べ物が血糖値に与える影響を理解できるようになり、より良い健康管理が可能になるしくみです。
現在は、糖尿病だけでなくメンタルヘルスや行動医学もターゲットに、サービスの展開を進めています。
例えば、精神科医やセラピストによる直接ケアに加えて、デジタル分析のフレームワークによるバーチャルコーチなどデジタル技術も活用して、適切なメンタルヘルスケアを提供するといったことを目指しています。

眼科デバイスの開発

Verilyは眼科デバイスの開発と商業化を進めるべく、参天製薬と合弁会社を2020年に設立しました。視力障がいの約8割は、早期発見と早期治療で予防できると言われており、デジタル技術とツールは、より予防的なソリューションを開発するための選択肢となりえます。
両社はマイクロエレクトロニクスと機械学習を活用して、近代的な眼科診療を支援するためのソリューションの開発や、緑内障やドライアイなどの眼科疾患の治療のためのプロジェクトを進めるとのことです。
また、診断だけでなく、治療法の改善や適切なタイミングで適切な介入ができるソリューションの開発、新たな眼科用デバイスの開発と商品化も目指しています。

臨床試験プログラムの開発

Verilyは、Novartis、大塚製薬、Pfizer、Sanofiの4社と提携して、新たな臨床試験プログラムの開発を進めています。この臨床研究プログラムは、Verilyが開発したBaselineプラットフォームを使っており、臨床試験の参加者が自らの医療データを容易に登録、提供できるようにすることで、研究対象グループの増加と多様化を狙っています。
Verily は2017年から、エンドツーエンドのエビデンス作成プラットフォームであるBaselineプラットフォームを通して、ヘルスケア、ライフサイエンス、テクノロジーのパートナーと連携し、コネクテッドリサーチエコシステムを構築してきました。
多くの人々を研究に取り込んで研究効率を向上させ、リアルワールドからより高品質で包括的なデータを収集してきましたが、今回の提携でそれらのデータが臨床試験に生かすことを狙っています。

ウェアラブルデバイスの開発

Verilyと武田薬品工業は、Verilyが開発した臨床研究用のウェアラブルデバイス「Study Watch」を使って、日本のパーキンソン病患者を対象に共同研究を進めています。
Study Watchは、生理的、環境的データを測定して解析するための特殊なセンサー装置と、データを収集するためのクラウド基盤を備えたスマートウォッチで、パーキンソン病患者のバイタルサインや運動症状の継続的な解析も可能です。
パーキンソン病とは、手足の震えや筋肉のこわばりなど、運動機能に障害が現れる神経性の神経変性疾患で、日本では特定疾患に指定されている難病です。
パーキンソン病のさまざまな症状に対する治療は進歩しているものの、神経変性の進行を遅らせる治療方法はまだ見つかっていません。Study Watchを通してパーキンソン病の患者から得られたバイタルサインや運動症状などのデータを解析することで、病気に関する新たな知見を得て、効果的な治療法の開発に適用することを狙っています。

バイオ電子薬の開発

Verilyはグラクソ・スミスクラインと提携し、バイオ電子薬の研究開発企業を設立しました。バイオ電子薬とは、体内に移植可能な極めて小さい端末を使って疾病を治療する薬です。端末は、主に疾病で発生する神経細胞を伝わる電気信号の不調を修正するように設計されるもので、グラクソ・スミスクラインは2012年からバイオ電子薬に取り組んできました。
新たに設立した合弁会社では、グラクソ・スミスクラインのバイオ電子薬に関する経験と、Verilyの電子機器や臨床用ソフトウェアの開発力を合わせ、まずは炎症、新陳代謝、内分泌疾患の原理に関する臨床検査の研究を進め、将来的には新たなバイオ電子薬の開発につなげる模様です。

Verilyの非デジタル技術を活用したビジネス

Verilyは高度なデジタル技術を持っており、その技術を生かしたプロジェクトが多数進められていますが、デジタル技術を使わないプロジェクトにも取り組んでおり、ここではウイルスを媒介するネッタイシマカを駆除する「デバッグプロジェクト」を紹介します。
ネッタイシマカは熱帯・亜熱帯地域に分布し、吸血する際の唾液で黄熱、デング熱、ジカ熱などのウイルス性の感染症を媒介する蚊として恐れられています。
プロジェクトでは、人工的に生産した不妊蚊(交尾したメスの卵が孵化しないようにするバクテリアを持たせたオス)を放ち、地道に成虫を減らす「不妊虫放飼」と呼ばれる害虫駆除手法を採用しています。
大量の不妊蚊が野生のメスの蚊と交尾すれば、その卵は孵化しないので、成虫が減っていくというもので、米国で行っているフィールドワークの成果を、今後は世界で生かそうとしています。

おわりに

今回は、Alphabetの傘下であるVerilyのビジネスと技術を詳しく見てきました。VerilyはもともとはGoogleの生命科学部門だったこともあり、主に高度なデジタル技術を活用してヘルスケア分野でビジネスを展開しています。
医薬品に関する経験やドメイン知識が乏しいこともあり、世界中の大手製薬会社と提携してビジネスを展開する例が多いようです。今後も、さまざまな製薬会社と協働でプロジェクトを展開することが予想されますので、その動向に注目しましょう。

参考サイト

Google Life Sciences部門が独立事業「Verily」として始動

参天製薬と Verily 社、独創的な眼科デバイスの開発・商業化を目指し
合弁会社設立を発表

アルファベット傘下のVerily、臨床試験の改善で製薬大手4社と提携–大塚製薬、ファイザーなど

Verily

Verily Life Sciences

Vivian Lee talks up Verily project that is helping patients with diabetes better manage their conditions

Verily’s Onduo expands virtual clinic again, this time with moves into mental and behavioral health

Verily社のStudy Watchを用いた日本人のパーキンソン病患者の運動症状を解析する 共同臨床研究について

Verily(旧Google Life Sciences)、グラクソと“バイオ電子薬”製造の新企業設立

Alphabet傘下のVerily、「デバッグプロジェクト」で2000万匹の不妊蚊を放す計画

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