【マーケティング・ミックス・モデリング】製薬会社様のサプリの広告出稿最適化

この記事を書いた人
知己松本

筑波大学大学院システム情報工学研究科卒業後、新卒でDATUM STUDIOへ入社。その後、Nextremerに転職しAI関連の研究開発に従事。独立を経てpiponにジョイン。

使用したデータ

今回、解析したサプリメントは、新規顧客を獲得するために無料のサンプルを配布しています。配布されるサンプルの量は、実際に使用してみて効果を実感できるほどの量は配布されていません。ただしこの無料サンプルには初回購入時に使用できるクーポンがついており、そのクーポンの使用期限は受け取ってから1ヶ月となっています。(したがってサンプルの配布の効果は、新規顧客獲得に対するクーポンの効果とほぼ言い換えることができそうです。)

またサプリメントおよびそのサンプルの配布を認知してもらうために、様々な媒体に広告を出しています。例えばテレビCMやYoutube広告などです。

このように新規顧客獲得数、サンプルの配布数、各広告媒体への広告費のデータが月ごとに得られている状況でこれらの関係を定量的に解析しました。

どのような解析をしたか

サプリメントのサンプルと様々な媒体に出している広告がサプリメントの新規顧客数にどれくらい寄与しているのかと、様々な媒体に出している広告がサンプルの配布数にどれくらい寄与しているのかを知りたいという2つのモチベーションがありました。そこでこれら2つの定量的な関係を同時に、つまり1つのモデルで推定するということを実施しました。それぞれに対して別々にモデルを構築して推定する、つまり2つのモデルを構築して推定することも考えられますが、このように2つのモデルを1つのモデルにまとめることで、各データが持っている情報を無駄なく使用できると考えられます。このようなモデリングをするにあたってベイズ統計学を使用しました。

モデル

今回使用するデータは月ごとの時系列データになります。またこのサプリメントは販売を始めてから数年経過しており、そのサプリメントを使用する必要があるような状況にある人々に対してある程度の認知を得られている状況にありました。つまり、顧客の新規獲得数は配布しているサンプル数と各媒体への広告費だけでは説明できないトレンドを持っていることが考えられます。これは言い換えると、サンプルの配布や広告を出すということをしなくても、今回の解析では考慮することができない口コミなどの効果によって、ある程度の新規顧客は毎月獲得できると考えられます。今回知りたいことは、このようなトレンドの影響を除去した、純粋なサンプルの配布の効果や広告の効果です。そこで、MRの営業活動による薬品売上への影響度を解析を解析したときのように、状態空間モデル(ベイズ統計学)の枠組みを使用してモデルを構築しました。

構築したモデルを図示すると次のようになります。薄いオレンジで囲まれている部分が「どのような解析をしたか」で述べた知りたいことの1つ目をモデル化した部分、薄い緑で囲まれている部分が知りたいことの2つ目をモデル化した部分、まとめて1つのモデルになっています。

ここでオレンジで囲まれた部分の中に、前月のサンプル配布数が入っています。これは、サンプルについてくるクーポンの使用期限が1ヶ月であることから、サンプルをもらったその月にクーポンを使って新規顧客となる場合と、月をまたいで前月のクーポンを使って新規顧客になる場合と2つの場合が考えられるためです。つまり1ヶ月遅れでくるサンプルの配布の効果を考慮していることになります。

解析によって得られる結果

先程の図において、トレンドから伸びる矢印以外の影響は、重回帰分析でいうところの偏回帰係数のような形で定量的に推定されることになります。さらに今回は状態空間モデル(ベイズ統計学)の枠組みを用いたモデリングを行ったため、推定結果は確率分布して得られます。したがって(構築したモデルが正しいという仮定の下で)、例えば今月サンプルを100個配布すると95%の確率で新規の顧客が1人〜3人増えるといったことや、95%の確率で1万円分テレビCMを増やすと新規の顧客が2~6人増えるといったことが分かるようになります。このようにして費用対効果を確率で表現することができます。またトレンドは、サンプルの配布や広告をやめた場合に、どれくらいの新規顧客が獲得できたか・できるかを知る目安になります。さらにトレンドの傾向をみることによって新たな仮説が生まれることもあります。例えばトレンドが上昇傾向にある場合、口コミといった考慮できていない要因によって認知が広がっているのかなといった仮説が生まれるでしょう。